一。

百てふ数は豊かなり、
倉に満ちたる穀のごと、
これの冊子の来し方の、
足らへることの証なり。

一は万《よろづ》の始めとて、
春立つ朝の空のごと、
これの冊子の更にまた、
新たに開く世界なり。

ああ見よ、此処に、まばゆくも、
聡く、気高く、うるはしき、
久遠の女、人のため、
行くべき方《かた》を指さしぬ。


  母の歌

ふたおやの愛の心は
等しくて差別なけれど、
その愛の姿のうへに
おのづから母ぞ異る。

女にて母とならずば
如何ばかり淋しからまし。
女なる身の幸ひは
母となり初めて知りぬ。

生むことは聖なるわざぞ、
母ひとり之をなすのみ。
神の子と云はるる人も
母の血を浴びて生れき。

男らは軍《いくさ》に出でて
人斬りし道なき世にも、
をさな児に乳房を与へ、
かき抱《いだ》き歌ひしは母。

母なくば人は絶えけん、
母ありて、人の生命《いのち》は
つぎつぎに新たになりぬ、
美くしくやさしくなりぬ。

今の世も男ごころは
おしなべて荒く硬かり。
正しきに導くものは
母ならで誰か能《よ》くせん。

願はくは母の名に由り、
地の上の人を浄めん、
富む者の欲を制せん、
戦ひを
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