全《また》くとどめん。
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大正十五年
〔無題〕
或日、わがこころは
うす墨色の桜、
また別の日、わが心は
紅き一ひらの罌粟《けし》の花、
時は短し、欲多し。
〔無題〕
あなた、石が泣いて居ます、
石が泣くのを御覧なさいまし。
あの朴の木の下の二つ目の石、
光を半分|斜《はす》に受けて
上を向いて、
渋面をして泣いて居ます。
こんな山の中で、静かな中で、
だまつて泣いて居ます。
〔無題〕
黄味がかつた白い睡蓮、
この花を見ると、
直ぐ私の目に浮ぶのは
倫敦《ロンドン》のキウ・ガーデンの池、
仏蘭西《フランス》風と全くちがつた
自然らしい公園の奥の池、
あなたと私とは立止まり、
さて其処に見た、
羅衣《うすもの》に肌身の光る
静かなる浴女の一群《ひとむれ》。
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昭和二年
正月に牡丹咲く
今年ここに第一の春、
元日の卓の上に、
まろまろと白き牡丹
力満ちて開かんとす。
金属も火も知らぬ、
かよわき中の強さ、
よき人の稀に持つ
素顔の気高さ。
この喜びにいざ取らん
わが好む細き細き穂長の筆。
牡丹とわが心と今
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