吹く風も有らねば
水晶に描《か》く是れや蒔絵か
大わだつみの底の御啓《いでまし》
時に金色《こんじき》上より曳きて
清《すゞ》しきひゞき最《いと》も※[#「王+倉」、9巻−318−下−7]々《さや/\》
星の七つぞ深く落ちくる

『美はしきもの悉《こと/″\》ねたむ
いまし竜神おそれ思はず
やまと美童《をぐな》の大皇子《おほみこ》奪《と》ると
相摸の海や走水《はしりみづ》の海
巨浪《おほなみ》ゆすりて詭計《たばか》りけりな
犠牲《にへ》に汝《な》が獲し弟橘《おとたちばな》は
光環《ひかりわ》かざす天《あめ》の幸姫《さちひめ》
清らの恋のいきみすだまよ
星の御座《みくら》へいざ疾く具せむ』

天《あめ》の使に御手《みて》とられまし
いま上げませるおん容顔《かんばせ》や
『相摸の小野《をぬ》に燃ゆる凶火《まがび》の
火中《ほなか》に立ちて問ひし君はも』
とぞ御涙《おんなみだ》この界《よ》に一つ
※[#「執/れっか」、9巻−319−上−8]く落ちぬと落ちぬと見しは
あなや刺櫛珠の刺櫛
櫛に尾を曳き星は昇りて

   二

天ざかる鄙の上総に
藻をかづき勇魚《いさな》とる男《を》は
天がした今
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