なき畫《ゑ》とは何れぞや

かくもいみじきつみ人の
ふるさとこそは君しるや
はたまた美《よき》をつみ人と
名づくる国へつれこしや誰


  ひとぢ琴

もとより琴の緒にしあれど
うらみにひくき音もこもり
のろひにたかきおともせむ
ほそ緒しら木のひと柱《ぢ》琴
君ふれ給ふことなかれ

もとより恋の琴なれば
はだやはらかういだかれて
きくべき胸のささやきを
あこがるるともしたふとも
あゝ君ふるることなかれ

ひと緒の琴のわが恋は
ひとりの人にふれてより
やむよしもなき音《ね》は高う
恋にうらみにある時は
人をのろひにやすきひまなき
[#改ページ]

 明治三十六年


  玉の小櫛

   一

竜神うろくづ海のつかひ女《め》
肩さし手さし供奉《ぐぶ》しまつるは
管《すが》だたみ八つ皮だたみ八つ
数へおよばぬ帛《きぬ》うはだたみ
三重《みへ》の御輿《みこし》に花とこぼれて
赤《あけ》の御袴《みはかま》ましら大御衣《おほみぞ》
おん正身《さうじみ》のみじろぐたびに
小波わきて飾る黒髪

潮《うしほ》の音《ね》こそ四方《よも》には通へ
前《さき》追ふ魚が頭頭《かしらかしら》の
瑠璃の燭《ひ》を
前へ 次へ
全116ページ中7ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
与謝野 晶子 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング