午砲《どん》のおと微かに響き、
打仰ぐ青き空には
紙鳶《いかのぼり》近く歌へる。
花を摘む
だれも、だれも、
春の日に
花を摘む。
むらさきの花、
紅い花。
庭で摘む、
野で摘む、
山で摘む。
むらさきの花
紅い花。
わたしも花を
摘むけれど、
淋しいわたしの
摘む花は、
うなだれた花、
泣いた花。
野にも、山にも
見つからぬ
欝金の花や
青い花。
春が来たとて
外へ出ず、
自分の書いた
絵の中と、
自分の作る
歌の中、
其処で摘む、
独りで摘む。
欝金の花や
青い花。
啄木鳥
咲いた盛りの
桜のなかで、
啄木鳥《きつつき》こつ、こつ。
啄木鳥よ、
おまへは自然の
電信技師、
何処へ打つのか、
桜のなかで、
春のしらせを
こつ、こつと。
願ひ
虹のやうな衣物《きもの》、
光る衣物、
着いたいな。
鳩のやうな白靴、
細靴《ほおそぐつ》、
穿きたいな。
天馬のやうな大馬、
青い馬、
乗りたいな。
みんなで着いたいな、
みんなで穿きたいな、
みんなで乗りたいな。
そして、みんなで行きたいな、
森《もおり》の奥の花園へ
みんなで踊りに行きたいな。
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