象の脊中に載せるのは
書物ですつて。
それは素敵だ、
僕がみんな読んで遣らう。

それから、象よ、
僕が書物を読んで仕舞つたら、
僕をお載せ、
さうして一散に駆け出して頂戴。

アウギユストは象に乗つて
何処へ行かう。
兄さんの大学へ行かう、
兄さんをおどかし[#「おどかし」に傍点]に。

いや、いけない、いけない、
兄さんはお医者になるのだから、
象に注射をして、
象を解剖するかも知れない。

母さん、何処へ行きませう、
宣しい、
母さんの云ふやうに、
広い広い沙漠へ行きませう。

象は沙漠が好きですとさ、
淋しい沙漠がね。
其処を通れば
太陽の国へ帰られる。
[#地付き](註「アウギユスト」は作者の幼い四男の名です。)


  元日の歌

元日のこころは若し、
清々し、美くし、優し。
人すべて一つになりて、
微笑みて諸手《もろで》を繋ぐ。

商人《あきびと》も我等を責めず、
貧しきも富を憎まず、
盗人も盗みを忘れ、
囚人《つみびと》も今日は休らふ。

溢るるは感謝のおもひ、
太陽も讃めて拝まん。
みしめ縄、門《かど》の松竹《まつたけ》、
見る物に春の色あり。

霞みたる都のかたに

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