ンダに
君ただひとり立つなかれ、
今宵は空の月さへも
人の踊を覗けるに。
いざ君、室内《うち》の卓に凭り、
ワルツの曲を聞きながら、
夜《よ》ひと夜《よ》取れよ、花の香《か》と、
香料の香と、さかづきと、
女の燃ゆるまなざしと、
きやしやに艶《いろ》めく肉づきと、
軽き笑まひと、足取と、
さらに渦巻く愛と美と。
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大正五年
〔無題〕
せよ、怖い顔を、
せよ、みんなでせよ。
そしておまへ達の宝である
唯一の劒を大事にせよ。
せよ、賢相《かしこさう》な顔を、
せよ、みんなでせよ。
そしておまへ達の護符である
てんかこくかを口にせよ。
おまへ達は決して笑はない。
おまへ達の望んで居る
日独同盟の成る日が来るとも、
どうして神聖サムラヒ族の顔が崩れよう。
おまへ達は科学主義の甲《よろひ》を着て、
血のシンボルの旗の下《もと》に、
おまへ達の祖先である
南洋食人族の遺訓を行はうとする。
世界人類の愛に憧れる
われわれ無力の馬鹿者どもは
みんなおまへ達に殺されねばなるまい、
おまへ達が初めて笑ふ日のために。
併し……
春より夏へ
八重の桜の盛りより
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