そを
森の梢より風に散る
秋の木《こ》の葉と見ん。
我は馬車、自動車、オムニブスの込合ふサン・ミツセルの橋に立ちつつ、
端なく我胸に砕け入る
黄金《きん》の太陽の片と見て戦《をのの》けり。
その刹那、わが目に映る巴里《パリー》の明るさ、
否《いな》、全宇宙の明るさ。
そは目眩《めくる》めく光明遍照の大海《おほうみ》にして、
微塵もまた玉の如く光りながら波打ち、
我も人も
皆輝く魚として泳ぎ行きぬ。


  覇王樹[#「覇王樹」は底本では「覊王樹」]と戦争

シヤボテンの樹を眺むれば、
芽が出ようとも思はれぬ
意外な辺が裂け出して、
そして不思議な葉の上へ
新しい葉が伸びてゆく。

ああ戦争も芽である、
突発の芽である、
古い人間を破る
新しい人間の芽である。

シヤボテンの樹を眺むれば、
生血に餓ゑた怖ろしい
刺《はり》の陣をば張つて居る。
傷つけ合ふが樹の意志か、
いいえ、あくまで生きる為。

ああ今、欧洲の戦争で、
白人の悲壮な血から
自由と美の新芽が
ずつとまた伸びようとして居る。

それから、
ここに日本人と戦つて居る、
日本人の生む芽は何だ。
ここに日本人も戦つて居る。



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