り。
ちり、りん、りんと一《アン》スウの
小《ちさ》い銅貨が敷石の
上で立てたる走り泣き。
初めのお客は誰れであろ、
わたしも投げてやりませう。
今朝の夜明の四時過ぎに、
誰れかとしたる喧嘩から、
ずつと泣いてたお隣の、
夫人《マダム》の顔をちよいと見た。
向うもわたしをちよいと見た。
思はず髪を引き入れた、
白い四階の窓口へ、
(巴里《パリー》は今日も薄曇り)
湿つた金薄《はく》[#「金薄」はママ]を撒くやうに、
アカシヤの葉が散りかかる。
ノオトル・ダアム
ああ巴里《パリー》の大寺院ノオトル・ダアムよ、
年経しカテドラルの姿は
いと厳かに、古けれど、
その鐘楼の鐘こそは
万代に腐らぬ金銅の質を有《も》ちて、
混沌の蔓の最先《いやさき》にわななく
青き神秘の花として開き、
チン、カン、チン、カンと鳴る音は
爽かに清《す》める、
劇しき、力強き、
併せて新しき匂ひを
「時」の動脈に注しながら、
「時」の血を火の如く逸ませ、
洪水《おほみづ》の如く跳らせ、
常に朝の如く若返らせ、
はた、休む間なく進ましむ。
その響につれて
塔の上より降《くだ》る鳥の群あり、
人は恐らく、
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