、呼び起すとて、
線香花火、青なると、
うす紫と、くれなゐと、
ばらばらばつと焚き給ふ君。
○
何方《いづかた》に向きて長ぜむ。
かく人は眉をひそめぬ。
わが心今日も昨日も夢のみを見る。
○
われは思ひき、毒婦ならまし。
ある宵にかたへ聞きせる
不幸なる運命の
性《しやう》を変へむと、十五より。
○
ひとびとが憚らず、
声放ち歌ふ時、
君は知れりや、悲しみよりも、
悦びは少しみにくし。
[#改ページ]
大正二年
巴里雑詠
巴里《パリイ》の宿の朝寝髪、
しろい象牙の細櫛で
梳けばほろほろ、あさましく
昨日も今日も落ちること。
君に見せじと、物かげに
隠れて梳けば、わが額《ぬか》の
鏡にうつる青白さ。
身のすくむまでうら悲し。
巴里の街の橡《とち》の葉は
はや八月に散りかかる。
わたしの髪もこの国の
慣れぬ夜風に吹かれたか。
いいえ、それとも、憎らしく、
しろい象牙の細櫛が
鑢となりて擦り切るか。
恋を貪るこらしめに。
または悲しい人の世の
命の秋の入口に、
わたしも早く著きながら、
真夏の花をまだ嗅ぐか。
梳けばほろほろ、堪《こら》へかね、
昨日
前へ
次へ
全116ページ中31ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
与謝野 晶子 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング