安らかに眠らむとして帰り来つるや
否々夢を、悪夢をば、
見むとぞ呼ぶ。やがて死ぬらむ。
   ○
恋をする時、死なむとする時
無くもがなの賢き頭《つむり》よ
烏羽玉の髪覆ひぬれども。
   ○
かかる夕に思ふこと、
少しことなるものながら、
哲学と浮きたる恋と何《いづ》れよからむ。
   ○
ひそかにも火の燃ゆる口われのみぞ知る
遠方《をちかた》に居てかの山を見む。
   ○
続けざまに杯あげて酔ひ給へ。
いとほしの君、
みじめなる君、
わが思ふ君。
   ○
ここちよきものならまし。
悪の醒むるも善よりするも、
わが目きはめてさはやかならば。
   ○
むかしとは若き日のこと、
昔にもまさり恋はると、
云ふことが、心より、
うれしきや、よろこぶや。
   ○
灰色の壁による人。
みづいろの玻璃《はり》の板による。
金色《こんじき》の雲による。
自《みづか》らは男によれる。
   ○
檀那をば彼は忘れず、
肩すぎてブロンドの髪ゆらめきし、
わざをぎ男目に消えぬごと。
   ○
手さぐりに人心よぢてゆく、
女の恋のはかなかりけれ。
かの時より死の友となりけれ。
   ○
眠りたる心をば
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