洋の一千九百十一年
十二月二日の日の出の珍しさよ、美くしさよ。
輝紅《ピンク》の濡れ色に
鮮かな橄欖青を混へし珍しさよ、美くしさよ。」
「二十の旋風器《フアン》は廻れども、
食堂のあひも変らぬむし暑さ。
今宵も青玉色《エメラルド》の長い裾を曳く
英吉利西婦人のミセス、ロオズが
人の目を惹く話しぶり。
それに流れ渡りの一人もの
素性の知れぬ諾威人が気を取られ、
果物マンゴスチインを下手に割れば
指もナフキンも紅く染む。」
かかることを数多書きて、
若やかに跳れる旅人の心うらやまし。
寒きかな、寒きかな、東京は
霙となりて今日も暮れゆく。
〔無題〕
旅順の港に
堅い防波堤を築くなら、
せつかく凍らぬ港でも
潮が動かないで凍りませう。
君とわたしもそのとほり、
夫婦の頑固な築石《つきいし》とならずに
いつまでも恋する仲で居ませうよ。
たとへば沖つ浪きらく気ままに遊ぶやうに。
〔無題〕
正月元日、
鏡餅の傍に寒牡丹一つ開き、
子供等みな健やかに、
良人《をつと》の留守|護《も》る我家は清し。
東京よりも寒しと云ふ巴里の正月は如何に。
歳の暮君は其処に着き給ひしならん、
前へ
次へ
全116ページ中24ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
与謝野 晶子 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング