君の旅にかずかずの幸あれと
家を挙げて祝ふ清き正月元日。
〔無題〕
真赤な花のいく盛《さか》り。
透きとほつたる真紅から、
うす紫を少し帯び、
さてはほんのり上白《うはじろ》み、
また物恨むしつこさの
黒味に移るいく盛り。
君よ棄てゆくこと勿れ、
真赤な花は泣いてゐる。
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大正元年
〔無題〕
虻のうなりか、わが髪に
触れて呼吸《いき》つくそよ風か、
遠い木魂か、噴上か、
をりをり斯んな声がする。
「君もわたしも出来るだけ
物の中身を吸ひませう。
今日のよろこび、行くすゑの
夢のかぎりを尽しませう。」
〔無題〕
うすく紅《べに》さす百合の花、
ひと花づつを、朝ごとに、
咲けば、どうやら、わが頼む
よい幸福《しあはせ》はまのあたり。
うすく紅さす百合の花、
ひと花づつを、朝ごとに、
散らせば、あたら、わが夢も、
しばし香りて消えて行く。
うすく紅さす百合の花、
よし、幸福《しあはせ》でないとても、
また、かりそめの夢とても、
わたしは花をじつと嗅ぐ。
〔無題〕
若い娘の言ふことに、
「別れを述べる時が来た。
美くしい花、にほふ花
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