、このみますなる御画題の、われのすがたは舞すがた、ふり袖きせて花櫛を添へたまふこそ今はをかしき。

髪すけば、君すむかたの山あをくわれに笑む日か、さくらさく君があたりの朝の雲、きて春雨とわが髪に油のごとくそそぐらむ日か。

われぞ病む、愛憎度なきおん神のしもべとなのるわかうどの、祝詞《のりと》か咒詛か、ほそごゑのふしをかしきを戸にききて、うしろ姿を見たるものゆゑ。

ききたまへ、扇に似たる前髪にふさふとあへて云ふならば、われは后《きさい》のおん料の牡丹もきらむ、おほきみの花もぬすまむ。食まじ、木《こ》の果《み》は。

細眉や、こき前髪や、まろき頬や、姉によう似る我なれば、春ひねもすを小机の、はしに肘して人おもふ御病《みやまひ》さへも得つと申さむ。

おん髪はむすばず結はず、土に曳き尋《ひろ》する藤を挿してゆけ、かぐろの髪と紫と大路に浪をなさむ時、みやこをとめはさうぐるひ、千人《ちたり》にわけて与へよと、おん跡おはむそのなかに、われもまじりて西鶴の経師《きやうじ》が妻のふりに似る、よき人得よと祝ぎて帰らむ。
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 明治四十年



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