甲子園、ホテルの宵を、
遥かにも思ひやりつつ、
浮びくる唐の詩人の
宮詞《きゆうし》など、口に載せつつ、
幸ひの身にも及ぶと
云ふ如く、我れ楽みき。
あることか、二三日のちの
消息は、新男君《にひをとこぎみ》、
うちつけに、その夜中より
病して、妹背の契り、
空しくも、うたかたとなり、
永久に帰らぬ国へ、
翌る日の十七日に、
赴くと、逝《かく》れましぬと、
云ふものか、報ずるものか。
あさましと、云ふにも過ぎぬ。
はかなしと云ふきはならず。
喪の人と、この時すでに、
新妻の美喜子の君は
なりたまひ、つるばみごろも、
深く染め、籠りたまふと、
云ふことを、誰れか思はん。
涙ゆゑ濡れまろがりし
ひたひ髪、そのまみ見ゆれ。
哀愁にとざされはてし、
二方《ふたかた》のたらちねの君、
思はれて、虚無の隣の
人の世を、ひたすら歎く。


  をんな

涙の花のことごとく、
白く咲く日も、その内に
燃ゆる焔のひそみたる、
女の胸の怪しさよ。

かの青春が放ちたる、
火の綿綿と絶えざるを、
抱きて死ぬ期に至るこそ
太陽の子の女なれ。

かつてはあてに香ぐはしき、
くれなゐの花咲かしめき、
恨みの心深
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