日、
これさへ色と彩《あや》ありて、
与らぬをばさびしやと、
羨しやと、泣かれたり。

見るべからざる物を見て、
寂しく時を送りぬと、
君見て云はん後もなし、
虚無の世界のことなれば。


  半分以上

私の子供達、さやうなら。
お父様のところへ行きます、
いろんな話をしませう。
あなた達もさう思ふだらう。
けれどそれは詩だよ、
言偏《ごんべん》の「し」だよ。
何があるものですか未来に、
そんな世界がねえ。
私はよく知つてゐた。
あれからの私は寂しかつた。
でもそればかりではなかつた、
私は詩を描いてゐたからね、
生活のおよそ半分を、
詩で塗つて来ましたよ。
この期に臨んでも、
私は抱いてゐます詩を、
詩を半分以上。
それでは行きますよ。
宣しく云ひませうね、
あなた達のお父様に。

[#改ページ]

 昭和十二年


  藤七の硝子

永久に若い天女の、
降りて来たのが藤七の工場。
作られて行く硝子の高坏《たかつき》の
美くしさに、うつとりと、
手を触れた指の跡。
うす紅《べに》の指紋を御覧なさい。
上からでも、下からでも、
もともと硝子なのですから。

指紋が残つて居ればとて、

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