恵みて分つすべ無きか。

市人《いちびと》たちよ、重ねたる
衣《きぬ》の一つを脱ぎたまへ。
飢ゑ凍えたる父母に
その少女らを売らしむな。

彼等の子なる兵士らは
出でて御国を護れども、
ああ、その心、ふるさとの
家を思はば悲まん。

ともに陛下の御民なり。
是れよそごとか、ただごとか。
いざ、もろともに分けて負へ、
彼等の難は己が難。


  〔無題〕

たけ高きこと一丈、
雪白《せつぱく》の翼を拡げたる大鳥二つ、
鸞ならん、鳳ならん、
青き空より舞ひくだり、
そのくはへたる紫の花を
幾たびも我手に置きぬ。
昨夜の夢は是れなり、
かかる夢は好し、
覚めたる後も猶
燦爛として心光る。


  〔無題〕

今日わしれども、わしれども、
武蔵の路の長くして、
われの車の窓に入る、
盛り上がりたる白き富士。

竜胆《りんだう》いろに、冬の空、
晴れわたりつつ、雲飛ばず。
見て行く萩の上にあり、
河原より吹く風のおと。

[#改ページ]

 昭和十一年

  一とせ

能はずとせしことなれど、
怪しく此処に得たりけれ。
おのれの死にて亡き後の、
世をば一とせ我れの見る。

能はずとして思ひし
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