て封を解きました。
問題の女をさし出します。
この冒頭に私の心は平静を失ひまして、あとの文字はよくも頭に入らないのでした。今はこの女の生命も自分の生命もあなた方御夫婦に縋つて取り留めて頂くより方法がないなどと書いてあつたやうでした。殊に死と云ふ字を多く女のことを云ふ中に使つてあつたやうです。
『Yさんがその芸者をおよこしになつたのですよ。逢つてやつて下さいつて。』
良人は手紙を見ずにくるくると巻いてしまひました。
『逢つておやりよ。』
『何処で。』
『階下《した》でさ。』
『もう皆お床を敷いてますわ。』
『書斎でさ。』
『どう云ふ人でせう。』
『また伺ひます。』
と云つて、Sさんは立つてしまひました。私には乳の上に二所とか刺青をしてあると云ふその西国の芸者と差向ひで話をすることを唯の事をするとは思へないのでした。
『あなたも逢つてやつて下さいな。』
『さようなら。』
Sさんが梯子段を降りて行きました。良人も私も玄関へ送つて行つてますと、きやつきやつと笑ひながら二人の女の子が障子の向うまで来て居ました。
『寝て居ましたのがね、起きてお送りをしに来て居るのですよ。』
『裸体で飛び
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