宅雄次郎《みやけゆうじろう》博士は『東京朝日』紙上で故|乃木《のぎ》将軍の遺書が伯爵|寺内正毅《てらうちまさたけ》氏に由って書き替えられたと公言せられ、また同時に男爵|後藤新平《ごとうしんぺい》氏の私有財産は二千万円に達している、それは後藤氏の労働から収得した正当な報酬であるかと詰問されております。これらの事件が欧米の社会で公言されたならば、二氏の人格は破滅してその首相たり内相たる地位から永久に失脚するか、あべこべに摘発者の三宅博士が裁判沙汰によって公人の生活から放逐せられるかして、いずれかの一方が由々《ゆゆ》しき倫理的制裁を受けずには已《や》まないでしょう。しかし寺内、後藤二氏はこの致命的事件に対して全く知らぬふりをし、同僚の閣臣も、貴衆両議院も、政党も、教育界も一般社会も平然としてこれを看過しております。寺内、後藤二氏非なるか、三宅博士是なるか、それを明らかにすることなくして、この一国の風教に関係ある重大なる問題は、軽々に取扱われてしまうのです。しかし人の母たる私たちに取っては、こういう事実が新聞紙上に現れるごとに、言い知らぬ不快と公憤とを感じます。母の心にも、子供たちの心にも、大
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