とが不満を感じさせるからで、そうしてその理由は個人、国民、世界人という三つの面が矛盾し、衝突し、破裂しているからだということを今は私たち婦人も知る時機が来ました。即ち個人生活に利のあることは国民生活に害があり、国民生活に利のあることは世界生活に害があるという矛盾した状態に置かれているからだと思います。例えば戦争という人生の事実が縦《ほしいま》まに個人を殺傷して個人生活の安全を害すると共に世界の平和をも乱すことは何人《なんぴと》にも明白なることであるのですが、世界の文化の進歩したといわれる今日にかえって現在のような狂暴な大戦争が数年にわたって継続されているということは、今日もなお国民生活を特に偏重して、国民の自治的代表機関である国家が国民生活としての利害の前に他の二つの生活を犠牲にして顧みないという旧式な思想に原因していると思います。
私たちの本能はどの生活をも享楽することを要求します。三つの生活のどの一つをも欠こうとは思いません。私たちは現に一日の中にも個人本位の生活をして他の二つの生活を藐視《びょうし》している幾刹那もしくは幾時間があります。食事も、睡眠も、読書も、労働も立派に個人
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