についてのみならず個人の尊厳はこの性情を土台として保たれかつ発揮せられるものだと信じている。
 このように意識して自分の貞操の地盤を反省し出した自分は「純潔」を貴ぶ性情を主とした上になお下のような理由を新たに加えたい。それはもし貞操を乱した場合を予想した消極的の理由ではあるが、今日の自分はこういう事をも考えて見ずにはいられない。即ち処女時代において不貞の行為があれば、処女の純潔は破壊せられたのである。その女は自ら恥と悔《くい》とを覚えるばかりでなく、淑女たる資格なき者として社会から擯斥《ひんせき》せられても涙を呑《の》んで忍ぶより外はない。進んで貞淑な人の妻となる資格に欠けた所のあるのは勿論である。かような将来の不幸を予知する明敏な心がある以上、処女自身にあくまでも自己の貞操を尊重するのが賢い仕方である。
 妻にして貞操を破るとすれば忽《たちま》ち家庭の不和を生ぜずには已《や》むまい。子女の教育についても母が正義の規範を示す資格を欠くことになる。教えられざる女は知らぬこと、理智の眼の開《あ》いた婦人はこれがためにも貞操を尊重せねばならぬ。家庭の平和と純潔とを乱せば一身の破滅ばかりでなく
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