て貞操に何の欠けた所もない生活を続けて来ているのは自分ら夫婦にとって東から日が昇るのと斉《ひと》しく当然《あたりまえ》の事としている。一夫一婦主義を意識して実行しているのでも、『女大学』に教えてあるような旧道徳に圧抑せられているのでもない。つまり初めの恋愛状態が益々根を張り枝を伸して発達して行くのに過ぎない。良人と自分とは天分も教育も性情も異《ちが》っている。それでいろいろの彩料を交ぜながら何処《どこ》かに引緊《ひきしま》って調和が取れている絵のように二人の心持がしっくりと合っている所に、自分の感情は歓喜と幸福とを得ているらしい。勿論、不足と不安とは自分らの生活の上に絶間もないが、その不足と不安の生活を共にしているという事が、自分らの歓喜でも幸福でもある。動揺の乏しい単調な生活であったなら自分らはあるいは早く倦《あ》いてしまっていたかも知れない。
同じ芸術に従事して生活の思想にも形式にも類似の多いという事が二人の心の平衡《へいこう》を保って行かれる一つの原因であろう。また子供に対する愛情を斉しくしていることも一つの原因であろう。また良人を師として常に教えられ、親友以上の親友として、不
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