ほあん》だつたのです。私も面白半分に、
「辛い。」
と真似をして捨てましたが、悪いことをしたと直ぐ思ひました。松茸の御飯や、お汁や、それから堺から待つて来た料理やでおいしいお昼飯は食べましたが、父やその外《ほか》の人の酒宴《さかもり》が、何時《いつ》果てるとも見えませんのが困ることと思はれました。松の木の間からは遠い村里や、続きに続いた山脈の青が眺められました。心が悲しいやうな寂しいやうなものになつて居るのでしたから、弟を誘つたり、従兄を呼んだりして、もう一度松茸を捜しに行くこともしたくないのでした。金右衛門さんの指図で、私等はやつと山を下りることになりました。蜜柑畑へ更に伴はれるのです。酒宴《さかもり》の所で踊《をどり》を見せたりして居たお政さんも一所に行くことになりました。大人達は外《ほか》の道から帰ると云ふことでした。低い山に見渡す果てもない程に多くの蜜柑の木が植つて居ました。青い中に星のやうな斑点が蜜柑に出来た頃です。
「いくらでもおとりなさい。」
と云はれても誰も皆十五六よりは手に持てませんでした。手拭《てぬぐひ》の端へ包んで田舎者のやうに肩へ掛けて歩くのが、どんなに面白く思
前へ 次へ
全79ページ中48ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
与謝野 晶子 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング