れてしまひました。
三時半頃に私が店へ出てのれんの間から外を見て居ますと色の白いひどい吊目の口の前へでた、丁度《ちやうど》狐のお面のやうな、柴田はにこ/\笑ひながら川端筋《かはばたすぢ》を東から出て来るのでした。電信柱の横で私から紙包を受取ると、狐の子供はまた飛ぶやうに帰つて行くのでした。
一月《ひとつき》も立つて後《のち》に私はまた新しい苦痛に合はなければなりませんでした。私と柴田の秘密を何時《いつ》の間《ま》にか知つた人が出て来たのです。それは和田《わだ》と云ふ人でした。
「あんたは柴田さんに毎日お菓子を上げてなはるんだすな。」
私は黙つて居ました。
「隠しても知つてます。あんたあんな人にお菓子なんぞ取られてないで私におくなはれ。そやないと先生に云ふ。」
これもまた脅迫者だつたのです。
「柴田さんには初めに私が悪いことをしたのでしたから。」
「私にさへくれゝば柴田さんがあんたに意地悪をしても私があんたに附いて上げる。」
「かうしませう、私、柴田さんとあなたの二人に上げませう。」
心弱い私はまたこんな約束をしてしまひました。それから後《のち》の私はもうお菓子も果物も見るだけ
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