るのが厭《いや》なんだつか。」
柴田は恐い顔をした。
「厭と云ふのぢやありませんけれど。」
「鳳さん、私が先生に云ふたらあんた困ることがありますよ。」
「何です。」
「あんた学校へお菓子を持つて来ていゝのだすか。あんたはそないに悪いことしてなはるやないか。」
私は貢物のやうにして毎日柴田の手へ運んで居る物は、学校で厳禁されて居るものであると云ふことを此《この》時まで気附かずに居たのでせう。どんなに柴田のこの脅迫は私を苦しめたものであつたか知れません。私はものもよう云はずにじつと相手の顔を眺めて居ました。
「悪いことしてなはるのやろ。先生に知れたらどないなことになるか知つてますか。」
私は泣き出しました。そしたら柴田は背《せな》を撫でました。
「泣かんでもええわ。私云へへんわ。あんたさへもつと何時《いつ》迄もお菓子をくれたなら。」
「また学校へ持つて来るのですか。」
私は呆れながら云ひました。
「かうしますわ、これから私が毎日あんたの家《うち》へ貰ひに行くわ。三時半頃にきつと拵《こしら》へておいとくなはれ。」
「さう、そんならよろしいわ。」
私はまたうまうまとこんな約束をさせら
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