の口《くち》に結んで居ました。紺木綿《こんもめん》の前掛をして居ました。

 これも二年生位の時、先生は修身《しうしん》の話をしておいでになりましたが、
「あなた方、此処《ここ》に三羽のひよこがあるとしまして、二羽のひよこは今人から餌《ゑ》を貰つて食べて居ます。一羽のひよこはそれを見てます。さうするとその一羽のひよこはどんなことを思つて居ると思ひますか。解《わか》つている人は手をお挙げなさい。」
とお云ひになりました。手を挙げたのは僅に三人でした。私はもとよりその中ではありません。一番の子と二番の子と三番の浅野《あさの》はんがそれです。
「浅野はん。」
と先生は指名をなさいました。私はこのむづかしい問題を説き得たと云ふ浅野はんをえらい人であると思つて、後《うしろ》に居るその人の顔を振返つて眺めました。
「私も欲しいと思ひます。」
 浅野はんはかう云つただけです。先生は可否をお云ひにならずに、外《ほか》の二人を立たせて答をお聞きになりました。
「私も欲しいと思ひます。」
 皆この言葉を繰り返しただけです。私はつまらないことを考へる人達だと三人を思ひました。一羽のひよこが何を思つて居たかは
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