だすな、二人でお家《うち》ごつこなんてして遊んだら面白うおますやろ、今日行きませう、燈籠へ。」
加賀田さんは直ぐに賛成をしたのでした。私は其《その》日のお昼飯を平生の半分の時間も使はず済ませて、急いで加賀田さんの門口《かどぐち》まで行きますと、もうおみきさんは先刻《さつき》から待つて居たと云ふのでした。二人は手を引き合つて住吉《すみよし》神社の宿院《しゆくゐん》のお旅所《たびしよ》の隣にある大燈籠の所へ行きました。石段が五六段あつて、二つの燈籠の並んだ廻りの石も二尺位の幅のあるものなのです。その二三日前に見知らない子が二三人その上へ上つて遊んで居るのを見て私は羨しく思つたのです。初めて上へ上つて見ますと、地上からは一|丈《ぢやう》も離れて居て、向うの青物市場《あをものいちば》などがよく見えて面白いのです。二人は燈籠と燈籠の間をお廊下だと云つて通つたり、二階から降りませうと云つて下へ降りたり、花園へ行くと云つて玉垣《たまがき》の傍《そば》に生えた草を摘んだりして居ました。丁度《ちやうど》二人が上に居て燈籠の脚元《あしもと》へ腰を掛けて居ます時に、突然わあつと云ふ声がして、ばらばらと穢《きたな》い物が寄つて来ました。それは乞食なのです。
「おい、何をしてる。」
「阿呆《あはう》。」
「降《お》れ、降《お》れ。」
「此処《ここ》は此方《こつち》の仲間のやで、おまん等《ら》の上る所やないで、阿呆。」
「えらい目に合せてやる。」
男も女も混つた子供の乞食なのですが、その着物のぼろ/\さは東京の乞食のやうなものではないのです。山蔭《やまかげ》の土に四|月《つき》も五|月《つき》もひつゝいて居る落葉のやうなものを着て居るのです。竹の棒やら、木の片《はし》やらを皆持つて居て私等の足に近い所を叩いて居るのです。私等二人は余りの驚きに物が云へなくなつて居ました。手をしつかりと取り合つて二人が狭い石段を降りますのに、下駄の先ががた/\と鳴つてなりませんでした。慄《ふる》へて居たのでせう。もう走つて行けばいゝのであると二人が思つて居ますと、
「おい。」
「唖《おし》か。」
二人は首を振りました。
「そんなら銭を持つてるやろからおくれ。」
二人はまた首を振りました。
「持つてへんで、阿呆やな。」
と一番大きい女の乞食が云ひました。
「そんならお菓子でもえゝやないか。」
と仲間の顔を見
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