蒲団を上げながら、マリイはをかしくてならないと云ふ表情を顔から頸つきにまで現はさうとした。
『どうして居るのだい。』
 マリイは唇を閉ぢて点頭きながら、左隣の方の壁を指ざした。
『隣に居るの、此頃は。』
『さう、さう。』
 とマリイが云ふ。
『あら。』
 と云つて女は男と顔を見合はせた。
『子供をもう産んでしまつたの。』
 マリイがうなづく。
『何時頃だい。』
 マリイは指を折つて見て、
『二週間前。』
 かう云つて大きい藁蒲団を手際よくマリイは裏返した。女が歩み寄つて向側から敷布を下に挾むのなどを手伝つて居た。
『男の子なの、女の子なの。』
 と女が聞いた。
『小い男の子でしたよ。』
『父なし子は丈夫で居るのかい。』
 欄に肱を突いて身体を反り省すやうにしながら男が云つた。ちらと隣の窓に掛つて居た白いきれが目に入つた。
『田舎へ行きましたよ。』
 掛蒲団の下かけのはしをもう一枚藁蒲団の下に挟みながらマリイが答へた。
『里へやつちやつたの。』
『さう、さう。』
『産の時もやつぱし屋根裏の部屋に居たの。』
『さうですよ。』
『男は一人位来たかい。』
『どうして、どうして。』
 安楽椅子の
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