く見られる。ルイの顔にも似ない赤茶をした毛の地の色の隣にあるから一層それが目立つても見えた。ものを云ひ云ひ西班牙女が身体を擦り寄せて行くのを、恐いやうにルイが少しづつ身を引くのがをかしくて、三階の窓の女は思はず微笑んだ。下卑た手附きで小母さんがビイルのコツプを取つてなみなみと注いで、一寸舌で嘗めて身体の横へ置いた。西班牙女がリキユウルのコツプを持つとルイが瓶を取つて注いでやつた。自身のにも注いでおかみさんに飲まないかと云ふと、ブランシユは忙しく首を振つた。小母さんがビイルはどうかと云ふやうなことを云つた。令嬢《マダマアゼル》とか夫人《マダム》とか名につけて云ふ若い女、どれも先づ自身よりは容貌の好い独身の女を七八人も家に置いて居るおかみさんの身になつたなら、遣る瀬ない腹立たしい思ひも時々はする筈なものであらうなどと上の女は思つて居た。そんな事ですつかり機嫌が直つてしまつた。
『一寸来て御覧なさいよ。あなた。』
『何があるのだ。』
『皆庭へ出て居ますわ。』
『さうかい。』
 男は気のない声で云つて居た。
『下の西班牙人は綺麗ね。』
『さうかね。』
『あなたよく知らないのですか。』
『ときど
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