方向いた方には主人のルイと西班牙の踊子が居る。土の上に低い小い卓が出されて居て、リキユウル用の小いコツプが三つ程と、ビイルのコツプが二つと酒の瓶の二三本が置かれてある。向う向きのベンチにはおかみさんのブランシユとおしごとに来る小母さんが掛けて居る。ブランシユは髪針《ピン》を口に銜へながら、膝の上で附髷を結ひ直して居た。薄紺のジヤケツを着た西班牙女《イスパニヨル》が頻りに笑声を交ぜて話し立てて居る。前歯が抜けて居て糸切歯が牙のやうに光る小母さんは横向きになつて居るから、上からも鬼のやうな顔の線がよく動くことが見える。ルイは植木いぢりでもした跡か上はオリイブ色の襯衣だけで居た。二十八とかで評判の美男の彼の顔は上から見ると真中でもう少し禿げかけて居た。西班牙女は透き通るやうな気持の好い青味を交ぜた白い顔色で、黒瞳で笑ふ時も凄艶な怒りの影が見える濃い眉を持つて居る。頤が仏蘭西型よりは心持張つて見える。髪を尼そぎ程に頸の辺りで切放してあるのは何処の踊子もして居ることであるが、こんな房々とした厚い黒い毛を持つたのは珍しい。卓中の辻も二つに分けた前の分け目も、顔の色のそれよりもまた一層白く青く美くし
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