きになつた部屋の戸と、唯だの扉の入口とが鍵の手になつてある処に長谷部さんは立つていらつしつた。其処の廊下の突当りにも扉がありましたよ。
『マリイ、マリイ。』
 良人は女中に鍵が預けてあるんでせう。
『こちら、そちら。』
 二つの入口を指ざしてわたしは長谷部さんにかうたづねました。
『此方ですよ、奥様。』
 と大きい方を教へて下さいました。
 良人が来て手に持つた鍵を戸に当てました。わたしはまた俄に我に帰つたやうになつて泣き出したい気がしました。
 何処かで小鳥が啼いて居ました。



底本:「我等」我等発行所
   1914(大正3)年1月号
※「旧字、旧仮名で書かれた作品を、現代表記にあらためる際の作業指針」に基づいて、底本の旧字を新字にあらためました。
入力:武田秀男
校正:門田裕志
2003年2月16日作成
青空文庫作成ファイル:
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