のことだけは安心して死ねますようにと思いましてね、いろいろな空想も作って、仏様にもお祈りをしたことだったのですよ」
と泣きまろんで悲しみに堪えぬふうの尼君を見ても、実母が遺骸《いがい》すらもとめないで死んだものと自分を認めた時の悲しみは、これ以上にまたどんなものであったであろうと想像され浮舟《うきふね》は悲しかった。いつものように何とも言わずに暗い横のほうへ顔を向けている姫君の若々しく美しいのに尼君の悲しみはややゆるめられて、たよりない同情心に欠けた恨めしい人であると思いながらも泣く泣く尼君は法衣の仕度《したく》に取りかかった。鈍《にび》色の物の用意に不足もなかったから、小袿《こうちぎ》、袈裟《けさ》などがまもなくでき上がった。女房たちもそうした色のものを縫い、それを着せる時には、思いがけぬ山里の光明とながめてきた人を悲しい尼の服で包むことになったと惜しがり、僧都《そうず》を恨みもし、譏《そし》りもした。
一品《いっぽん》の宮《みや》の御病気は、あの弟子僧の自慢どおりに僧都の修法によって、目に見えるほどの奇瑞《きずい》があって御|恢復《かいふく》になったため、いよいよこの僧都に尊敬
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