の四位少将が昨夜夜ふけてからまたおいでになって、中宮《ちゅうぐう》様のお手紙などをお持ちになったものですから、下山の決意をなさったのですよ」
 などと自慢げに言っている。ここへ僧都の立ち寄った時に、恥ずかしくても逢って尼にしてほしいと願おう、とがめだてをしそうな尼夫人も留守で他の人も少ない時で都合がよいと考えついた浮舟は起きて、
「僧都様が山をお下《お》りになりました時に、出家をさせていただきたいと存じますから、そんなふうにあなた様からもおとりなしをくださいまし」
 と大尼君に言うと、その人はぼけたふうにうなずいた。
 常の居間へ帰った浮丹は、尼君がこれまで髪を自身以外の者に梳《す》くことをさせなかったことを思うと、女房に手を触れさせるのがいやに思われるのであるが、自身ではできないことであったから、ただ少しだけ解きおろしながら、母君にもう一度以前のままの自身を見せないで終わるのかと思うと悲しかった。重い病のために髪も少し減った気が自身ではするのであるが、何ほど衰えたとも見えない。非常にたくさんで六尺ほどもある末のほうのことに美しかったところなどはさらにこまかく美しくなったようである。「
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