やく鶏の鳴く声が聞こえてきた。浮舟は非常にうれしかった。母の声を聞くことができたならましてうれしいことであろうと、こんなことを姫君は思い明かして気分も悪かった。あちらへ帰るのに付き添って来てくれるものは早く来てもくれないために、そのままなお横たわっていると前夜の鼾《いびき》の尼女房は早く起きて、粥《かゆ》などというまずいものを喜んで食べていた。
「姫君も早く召し上がりませ」
 などとそばへ来て世話のやかれるのも気味が悪かった。こうした朝になれない気がして、
「身体《からだ》の調子がよくありませんから」
 と穏やかな言葉で断わっているのに、しいて勧めて食べさせようとされるのもうるさかった。
 下品な姿の僧がこの家へおおぜい来て、
「僧都《そうず》さんが今日《きょう》御下山になりますよ」
 などと庭で言っている。
「なぜにわかにそうなったのですか」
「一品《いっぽん》の宮《みや》様が物怪《もののけ》でわずらっておいでになって、本山の座主《ざす》が修法をしておいでになりますが、やはり僧都が出て来ないでは効果の見えることはないということになって、昨日は二度もお召しの使いがあったのです。左大臣家
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