を譏《そし》って皆一所で寝てしまった。
夜中時分かと思われるころに大尼君はひどい咳《せき》を続けて、それから起きた。灯《ひ》の明りに見える頭の毛は白くて、その上に黒い布をかぶっていて、姫君が来ているのをいぶかって鼬鼠《いたち》はそうした形をするというように、額に片手をあてながら、
「怪しい、これはだれかねえ」
としつこそうな声で言い姫君のほうを見越した時には、今自分は食べられてしまうのであるという気が浮舟にした。幽鬼が自分を伴って行った時は失心状態であったから何も知らなかったが、それよりも今が恐ろしく思われる姫君は、長くわずらったあとで蘇生《そせい》して、またいろいろな過去の思い出に苦しみ、そして今またこわいとも怖《おそ》ろしいとも言いようのない目に自分はあっている、しかも死んでいたならばこれ以上恐ろしい形相《ぎょうそう》のものの中に置かれていた自分に違いないとも思われるのであった。昔からのことが眠れないままに次々に思い出される浮舟は、自分は悲しいことに満たされた生涯《しょうがい》であったとより思われない。父君はお姿も見ることができなかった。そして遠い東の国を母についてあちらこちら
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