うな性質の人であると聞いていた老尼の所でうつ伏しになっているのであったが、眠入《ねい》ることなどはむろんできない。宵惑いの大尼君は大きい鼾《いびき》の声をたてていたし、その前のほうにも後差《あとざ》しの形で二人の尼女房が寝ていて、それも主に劣るまいとするように鼾《いびき》をかいていた。姫君は恐ろしくなって今夜自分はこの人たちに食われてしまうのではないかと思うと、それも惜しい命ではないが、例の気弱さから死にに行った人が細い橋をあぶながって後ろへもどって来た話のように、わびしく思われてならなかった。童女のこもき[#「こもき」に傍点]を従えて来ていたのであるが、ませた少女は珍しい異性が風流男らしく気どってすわっているあちらの座敷のほうに心が惹《ひ》かれて帰って行った。今にこもき[#「こもき」に傍点]が来るであろう、あろうと姫君は待っているのであるが、頼みがいのない童女は主を捨てはなしにしておいた。
中将は誠意の認められないのに失望して帰ってしまった。そのあとでは、
「人情がわからない方ね。引っ込み思案でばかりいらっしゃる。あれだけの容貌《きりょう》を持っておいでになりながら」
などと姫君
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