って、その結果私に好意を持つことがおできにならぬならそうと言いきっていただきたいのです」
 こんなことをどれほど言っても答えのないのでくさくさした中将は、
「情けなさすぎます。この場所は人の繊細な感情を味わってくださるのに最も適した所ではありませんか。こんな扱いをしておいでになって何ともお思いにならないのですか」
 とあざけるようにも言い、

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「山里の秋の夜深き哀れをも物思ふ人は思ひこそ知れ
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 御自身の寂しいお心持ちからでも御同情はしてくだすっていいはずですが」
 と姫君へ取り次がせたのを伝えたあとで、少将が、
「尼奥様がおいでにならない時ですから、紛らしてお返しをしておいていただくこともできません。何とかお言いあそばさないではあまりに人間離れのした方と思われるでしょう」
 こう責めるために、

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うきものと思ひも知らで過ぐす身を物思ふ人と人は知りけり
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 と浮舟が返しともなく口へ上せたのを聞いて、少将が伝えるのを中将はうれしく聞いた。
「ほんの少しだけ近くへ出て来てください」
 と中将
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