がされます」
などと少将は言った。夕風の音も身に沁《し》んで思い出されることも多い人は、
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心には秋の夕べをわかねどもながむる袖《そで》に露ぞ乱るる
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こんな歌も詠《よ》まれた。月が出て景色《けしき》のおもしろくなった時分に、昼間手紙をよこした中将が出て来た。
いやなことである、なんということであろうと思った姫君が奥のほうへはいって行くのを見て、
「それはあまりでございますよ。あちらのお志もこんなおりからにはことに深さのまさるものですもの、ほのかにでもお話しになることを聞いておあげなさいませ。あちらのお言葉が染《しみ》になってお身体《からだ》へつくようにも反感を持っていらっしゃるのですね」
少将にこんなふうに言われれば言われるほど不安になる姫君であった。姫君もいっしょに旅に出かけたと少将は客へ言ったのであるが、昼間の使いが一人は残っておられる、というようなことを聞いて行ったものらしくて中将は信じない。いろいろと言葉を尽くして姫君の無情さを恨み、
「お話をしいて聞かせてほしいとは申しません。ただお近い所で、私のする話をお聞きくだす
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