によそへてぞ見る
[#ここで字下げ終わり]
平凡なものであるが尼君は考える間もないほどのうちにこんな歌を告げた。目だたぬようにして行くことにしていたのであるが、だれもかれもが行きたがり、留守《るす》宅の人の少ない中へ姫君を置いて行くのを尼君は心配して、賢い少将の尼と、左衛門《さえもん》という年のいった女房、これと童女だけを置いて行った。
皆が出立して行く影を浮舟《うきふね》はいつまでもながめていた。昔に変わった荒涼たる生活とはいいながらも、今の自分には尼君だけがたよりに思われたのに、その自分を愛してくれる唯一の人と別れているのは心細いものであるなどと思い、つれづれを感じているうちに中将から手紙が来た。
「お読みあそばせよ」
と言うが、浮舟は聞きも入れなかった。そして常よりもまた寂しくなった家の庭をながめ入り、過去のこと、これからあとのことを思っては歎息ばかりされるのであった。
「拝見していましても苦しくなるほどお滅入《めい》りになっていらっしゃいますね。碁をお打ちなさいませよ」
と少将が言う。
「下手《へた》でしょうがないのですよ」
と言いながらも打つ気に浮舟はなった。盤を
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