ね」
などと僧都《そうず》は言い、不思議な女性のために修法を始めた。宮中からのお召しさえ辞退して山にこもっている自分が、だれとも知らぬ女のために自身で祈祷《きとう》をしていることが評判になっては困ることであると僧都も思い、弟子たちも言って、修法の声を人に聞かすまいと隠すようにした。いろいろと非難がましく言う弟子たちに僧都は、
「静かにするがよい。自分は無慚《むざん》の僧で、御仏《みほとけ》の戒めを知らず知らず破っていたことも多かったであろうが、女に関することだけではまだ人の譏《そし》りを受けず、みずから認める過失はなかった。年六十を過ぎた今になって世の非難を受けてもしかたのないことに関与するのも、前生からの約束事だろう」
と言った。
「悪口好きな人たちに悪く解釈され、評判が立ちますればそれが根本の仏法の疵《きず》になることでございましょう」
快く思っていない弟子はこんな答えをした。自分のする修法の間に効験のない場合にはと非常な決心までもして夜明けまで続けた加持のあとで、他の人に物怪《もののけ》を移し、どんなものがこうまで人を苦しめるかと話をさせるため、弟子の阿闍梨《あじゃり》がと
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