う、それでとめられない命であったなら、その人の業が尽きたのだとあきらめてしまおうと僧都は思って山をおりた。
うれしく思った尼君は僧都を拝みながら今までの経過を話した。
「こんなに長わずらいをする人というものはどこかしら病人らしい気味悪さが自然にでてくるものですが、そんなことはないのでございますよ。少しも衰えたふうはなくて、きれいで清らかなのですよ。そうした人ですから危篤にも見えながら生きられるのでしょうね」
尼君は真心から病人を愛して泣く泣く言うのであった。
「はじめ見た時から珍しい美貌《びぼう》の人だったね。どんなふうでいます」
と言い、僧都は病室をのぞいた。
「実際この人はすぐれた麗人だね。前生での功徳《くどく》の報いでこうした容姿を得て生まれたのだろうが、また宿命の中にどんな障《さわ》りがあってこんな目にあうことになったのだろう。何かほかから思いあたるような話を聞きましたか」
「少しもございません。そんなことを考える必要はないと思います。私へ初瀬《はせ》の観音様がくだすった人ですもの」
と尼君は言う。
「それにはそれの順序がありますよ。虚無から人の出てくるものではないから
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