く住みよくだれも思い、時々まいるだけで始終は侍していぬ人までも皆上がって来ていて、はるばると多く続いた対、廊、渡殿の座敷は女房で満ちていた。左大臣は父君の院の御在世当時にも劣らず中宮のためにあらゆる物をととのえて奉仕していた。末広がりになった一族であったから、かえって昔よりも六条院のはなやかさはまさってさえ見えた。兵部卿の宮が今までのようなふうでおありになれば、この集まった女性の中のある人々とこの幾月かのうちにはどんな問題を起こしておいでになるかもしれないのであるが、すっかりと冷静におなりになり、人から見れば少し性質がお変わりになったかと思われたのであるが、近ごろになってまた宮の君にお心を惹《ひ》かれ、御本性どおりにつきまとっておいでになった。
秋冷の日になって中宮は宮中へ帰ろうとあそばされるのであったが、秋の盛りの紅葉《もみじ》の季にここで逢えないのは残り惜しいことであると若い女房たちは言い、だれも皆実家にいず、このごろは六条院にまいっていた。水を愛し、月の景色《けしき》を喜んで音楽の催しなども常にあった。兵部卿の宮は常よりもはなやかな六条院を愛して、この空気の中心のようになっておいでになるのである。朝夕にお顔を見ていながらも、いつも今咲きそめた花に逢《あ》う気のされる兵部卿の宮であった。薫はそれほど入り立っていないのであるために、若い中宮の女房たちは、この人が来れば緊張してしまうのであった。ちょうどこの二人の若い貴人の同時に中宮のお居間に来合わせている時であったが、宇治にいた侍従は物蔭からのぞいて、どちらにもせよこのりっぱな方々の一人に愛されて生きておいでになればよかった。恵まれておいでになった幸運をわれから捨てておしまいになった姫君であると思い、他の人には宇治の山荘のこと、薫の愛人であった姫君のことなどは知ったふうには言ってないことであったから心一つに残念がっていた。兵部卿の宮が御所のお話などを細かく母宮へしかかっておいでにもなったため、薫がお居間を出て行こうとするのを見、自分を見つけさすまい、一年の忌の来るのも済まさずに宇治を去ったのは故人へ情のないことであるとは思われたくないと思い、侍従はすぐに隠れてしまった。
東の廊の座敷のあいた戸口に女房たちがおおぜいいてひそひそと話などをしている所へ薫は行き、
「私をあなたがたは親しい者として見てくださるでしょう
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