に』(われはありと親には申したれ)においでになっても、私はそっと行きますよ。つまらぬ身の上ですから、それだけはあなたのために遠慮されますがね」
 と母は泣きながら言っていた。
 薫《かおる》からまたも手紙の使いが来た。病気と聞いて今日はどうかと尋ねて来たのである。
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自身で行きたいのですが、いろいろな用が多くて実行もできません。近いうちにあなたを迎えうることになって、かえって時間のたつことのもどかしさに気のあせるのを覚えます。
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 こんなことも書かれてあった。
 兵部卿《ひょうぶきょう》の宮は昨日の手紙に返事のなかったことで、
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まだ迷っているのですか、「風の靡《なび》き」(にけりな里の海人《あま》の焚《た》く藻《も》の煙心弱さに)のたよりなさに以前よりもいっそうぼんやりと物思いを続けています。
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 などとこのほうは長かった。この前の前、雨の降った日に山荘で落ち合った使いがまたこの日出逢うことになって、大将の随身は式部|少輔《しょう》の所でときどき見かける男が来ているのに不審を覚えて、
「あんた
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