させたい人であるのを知らない人たちがいろいろに言って騒いでいるのである。
「女房の数が少ないようですね。確かに信用のできる人を捜しておくことですね。見ず知らずの女は当分雇わないことにしなさいよ。りっぱな方の奥様どうしというものは、御本人たちは寛大な態度をとっていらっしゃっても、嫉妬《しっと》はどこにもあるわけでね、お付きの者のことなどからよくないことも起こりますからね、悪いきっかけというようなものを作らないように女たちには気をおつけなさいよ」
などと、注意のし残しもないように言い置いてから、
「家で寝ている人も気がかりだから」
と言い、母の帰ろうとするのを、物思いの多い心細い浮舟は、もうこれかぎり逢うこともできないで死ぬのかと悲しんだ。
「身体《からだ》の悪い間はお目にかからないでいるのが心細いのですから、私はしばらくでも家のほうへ行きとうございます」
別れにくそうに言うのであった。
「私もそうさせたいのだけれど、家《うち》のほうも今は混雑しているのですよ。あなたに付いている人たちもあちらへ移る用意の縫い物などを家ではできませんよ、狭くなっていてね。『武生《たけふ》の国府《こふ》
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