もありませんのにね、ひどくすごい所に長く置いておおきになったのですもの、大将さんが同情して京へ迎えてくださるのがもっともですよ」
 そう言う常陸夫人は得意そうであった。女房たちも川の水勢の荒いことなどを言い合い、
「先日も渡守《わたしもり》の孫の子供が舟の棹《さお》を差しそこねて落ちてしまったそうです。人がよく死ぬ水だそうでございます」
 などと言っていた。
 浮舟の姫君は今思っているように自分が行くえを不明にして死んでしまえば、親もだれも当分は力を落として悲しがるであろうが、生きていて世間の物笑いに自分がされるようであればその時の悲しみは短時日で済まず永久に続くことであろう、死ぬほうがよいと考えてみると、そのほうには故障があるとは思えず快く決行のできる気になるもののまた悲しくはあった。母の愛情から出る言葉を寝たようにして聞きながら浮舟は思い乱れていた。いたましいふうに痩せてしまったことを乳母にも言い、適当な祈祷《きとう》をさせてほしいと言い、祭や祓《はらい》などのことについても命じるところがあった。「恋せじと御手洗《みたらし》川にせし禊《みそぎ》神は受けずもなりにけらしな」そんな禊も
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