されるのであって、
「あけて私が読みますよ。恨みますか、あなたは」
とお言いになると、
「そんなもの、女房どうしで書き合っています平凡な手紙などを御覧になってもおもしろくも何ともないでしょう」
夫人は騒がぬふうであった。
「じゃあ見よう。女仲間の手紙にはどんなことが書かれてあるものだろう」
とお言いになり、あけてお見になると、若々しい字で、
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その後お目にかかることもできませんままで年も暮れたのでございました。山里は寂しゅうございます。峰から靄《もや》の離れることもありませんで。
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などとある奥に、
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これを若君に差し上げます。つまらぬものでございますが。
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と書いてある。ことに貴女らしいふうも見えぬ手紙ではあるが、心当たりのおありにならぬために、また立文のほうを御覧になると、いかにも女房らしい字で、
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新年になりまして、そちら様はいかがでいらっしゃいますか。御主人様、また皆様がたにもお喜びの多い春かと存じ上げます。ここはごりっぱな風流なお邸《やしき》ですが、お若
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