さに走って来て夫人の前へそれを置いた。宮が、
「それはどこからよこしたのか」
 とお言いになった。
「宇治から大輔《たゆう》さんの所に差し上げたいと言ってまいりました使いが、うろうろとしているのを見たものですから、いつものように大輔さんがまた奥様へお目にかけるお手紙だろうと思いまして、私、受け取ってまいりました」
 せかせかと早口で申した。
「この籠は金の箔《はく》で塗った籠でございますね、松もほんとうのものらしくできた枝ですわ」
 うれしそうな顔で言うのを御覧になって、宮もお笑いになり、
「では私もどんなによくできているかを見よう」
 と言い、受け取ろうとあそばされたのを、夫人は困ったことと思い、
「手紙だけは大輔の所へ持ってお行き」
 こういう顔が少し赤くなっていたのを宮はお見とがめになり、大将がさりげなくして送って来た文《ふみ》なのであろうか、宇治と言わせて来たのもその人の考えつきそうなことであると、こんな想像をあそばして、手紙を童女から御自身の手へお取りになった。さすがにそれであったならどんなことになろう、夫人はどんなに恥じて苦しがるであろうとお思いになると躊躇《ちゅうちょ》も
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