い方にふさわしい所とは思われません。つれづれな日ばかりをお送りになりますよりは、時々そちら様へお上がりになって、お気をお晴らしになるのがよろしいと存じ上げるのですが、あのめんどうなことの起こりました日のことで恐ろしいように懲りておいでになりまして、あいかわらずめいったふうでおいでになります。若君様へこちらから卯槌《うづち》を差し上げられます。そまつな品ですから奥様の御覧にならぬ時に差し上げてくださいと仰せになりました。
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 こまごまと、年の初めの縁起も忘れて、主人のことを哀訴している、かたくならしい心も見える手紙を、宮は何度となく読んで御覧になり、怪しく思召して、
「もう言ってもいいでしょう、だれの手紙ですか」
 と夫人へお言いになった。
「以前あの山荘にいました人の娘が、訳があってこのごろあそこにいるということを聞いていました。それでしょう」
 この答えをお聞きになった宮は、普通の二人の女房が同じ階級の者として一人のことの言われてある文章でもないし、めんどうが起こったと書いてあるのは、あの時のことをさして言うに違いないとお悟りになった。卯槌が美しい細工で作られ
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