来たくても私の来られない間はこれを見ていらっしゃいよ」
とお言いになり、美しい男と女のいっしょにいる絵をお描《か》きになって、
「いつもこうしていたい」
とお言いになると同時に涙をおこぼしになった。
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「長き世をたのめてもなほ悲しきはただ明日知らぬ命なりけり
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こんなにまであなたが恋しいことから前途が不安に思われてなりませんよ。意志のとおりの行動ができないで、どうして来ようかと苦心を重ねる間に死んでしまいそうな気がします。あの冷淡だったあなたをそのままにしておかずに、どうして捜し出して再会を遂げたのだろう、かえって苦しくなるばかりだったのに」
女は宮が墨をつけてお渡しになった筆で、
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心をば歎かざらまし命のみ定めなき世と思はましかば
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と書いた。自分の恋の変わることを恐れる心があるらしいと、宮はこれを御覧になっていよいよ可憐にお思われになった。
「どんな人の変わりやすかったのに懲りたのですか」
などとほほえんでお言いになり、薫《かおる》がいつからここへ伴って来たのかと、その時
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