を聞き出そうとあそばすのを女は苦しがって、
「私の申せませんことをなぜそんなにしつこくお訊《き》きになりますの」
と恨みを言うのも若々しく見えた。そのうちわかることであろうと思召しながら、直接今この人に言わせて見たいお気持ちになっておいでになるのであった。
夜になってから京へいったんお帰しになった時方《ときかた》が来て右近に面会した。
「中宮《ちゅうぐう》様からもお使いがまいっておりました。左大臣も機嫌《きげん》を悪くなさいまして、だれにもお行き先をお言いにならぬような微行をなさるのは軽率で、無礼者にどこでお逢いになるかもしれぬことになって、お上《かみ》の耳にはいれば自分の落ち度になるからとやかましくおっしゃいました。東山にえらい上人《しょうにん》があるという話をお聞きになって逢いにおいでになったのですと、私は披露《ひろう》しておきました」
こう宮へ取り次がせることを述べたあとで、
「女の方は罪の深いものですね。私のようなきまじめな者さえその圏内へお引き入れになって作り事までお言わせになりますからね」
と時方は右近へ言った。
「上人にしてお置きになったのはよろしゅうございました
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